バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

6 女の子の会話

斎藤と立花はカワウチを連れて買い物に出ていた。
「カワウチ様、お買い物につき合わせてしまい申し訳ございません」
「あたしは楽しいからいいっすよ! 女の子っすもん、お洒落とかかわいい物とか気になるはずっすから!」

 

「カワウチ様は大変活発なのですね」
「私たちとはまるで違う」
「うーん、そんなことないと思うっすよ? 確かにお二人はおとなしいっすけど、好きな物に対してなら元気になれると思うんす」
雑用を楽しむカワウチはよくあちらこちらを掃除して回る。あの豪邸の地下には大きな書庫があるのだが、ここに来てからほぼ毎日、カワウチは二人の姿をそこで見ていた。
「お二人は本を読むのが好きなんすよね?」
「本も好きです。ですが、我々はそれ以上に「知識」というものに興味があります」
「うるはに同意します。知識は持っていて損もなく、人間と違い裏切ることはありません」
「なるほど! あたし、頭が悪いんで今度勉強教えてほしいっす!」

 

「教えることなら、他にもありますよ」
斎藤はぽんとカワウチの肩に手を置いた。顔こそ笑っていなかったが、その空気感には安堵できる。
「私たちよりもカワウチ様は年頃です。一緒にお洒落しませんか」
「私たち二人ではどうにもその辺りに敏感になれないのです。カワウチ様にご教授願います」
二人の顔を見、ぽかんとしていたカワウチはとびきりの笑顔を見せた。
「……はいっす!」

 

買い物袋を抱えた三人は帰路についていた。
「……そういえば、カワウチ様は田辺様の管轄の方なのですよね」
「そうっす。私の命を救ってくれたのが田辺さんすから」
カワウチは空を仰ぐ。
「あたしの生まれ故郷では、忌み子は皆殺されていたっす。あたしも両親が必死に隠していたんすけど、長くは持たなくて。目隠しをされて連行されて、何が起こったか自分でも分からなかったっす。ただ、次に目隠しを外してくれたのが、田辺さんした。止めようとする人々を薙ぎ払って、数人の忌み子を連れて走ったっす。夢中で走ってたもんすから、故郷の場所はもう分からないし、知ろうとも思わないっすね」

 

「壮絶、だったのですね」
「そうっすね。でも、私は親に愛された。下にはたくさんの兄弟がいて、あたしが忌み子でなければ幸せな家庭っしたから」
「帰ろうとは思わないのですか」
「そんなことしたら、今度こそ殺されるっす。……まぁ、あたしが殺してしまいそうな気もするっすけどね」
カワウチが視線を落としたその時だ。

 

「……!」
カワウチは突然足を止めた。つられて斎藤と立花も足を止める。
「どうかなさいましたか、カワウチ様」
「……500メートル先、650キロの生物が移動。こちらに向かってきてるっす」
カワウチは荷物を斎藤と立花に預けた。
「いってくるっす! お二人は先に屋敷に!」
「お待ちください。私たちも向かいます」
「うるはに同意します。今は腕が立ちませんが、忌み子の「仕事」を見せてください」
「……危ないと思ったら即急に逃げるんすよ!」
二人が頷いたのを確認し、カワウチを筆頭に三人は走り出した。