46 ファンの違和感
「羽鳥、大丈夫か?」
心配するメンバーに羽鳥は笑いかける。
「大丈夫だよ。痛みだって一瞬だったし」
「でも、頬赤いですよ。冷やしたほうが」
「ううん。このままでいさせて」
虎屋は罪悪感に打ちひしがれていた。あまりに平気そうに振舞う羽鳥の様子が、逆に心を締めあげられる。
「ごめん、ひなちー。」
「ううん。私も早く気付けばよかった。イズミちゃんが、そんなに怒ってるって」
「でも、そのつもりがなかったとはいっても、ひなちーが……」
羽鳥は微笑んで虎屋の手を取る。
「イズミちゃんが怒ってる「証拠」、大事に持っておくから。大丈夫。イズミちゃんに頭を下げた相手も、救うから」
「……ごめん」
どれだけフォローをかけられようとも、大事な仲間に手を上げてしまったという事実は、虎屋の重荷になっていた。
表舞台ではグレフェスが進行し、Beau diamantの番になっていた。
機材の用意を進めているメンバー。会場はざわめいていた。楽しみのコールの中に交じる、「あれ? ベースの子、変わった?」「DJもかわってない?」
しかし、その声は喜咲には届かない。
「皆様ぁ! お待たせいたしましてよ!!」
マイクを握り高々に宣言する喜咲。盛り上がる開場。しかしその基盤は、すでにどこかが揺らいでいた。
喜咲は知らない。辻宮と菊園を追っていたファンの力を。