バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

47 頬の赤みはあの子のため

「羽鳥、大丈夫か」
舞台裏に立つ安藤は羽鳥に声をかける。羽鳥の頬の赤みは引いていない。
「やっぱり冷やしたほうがよかったんじゃないか」
「大丈夫。それに、これがあったほうが、私も覚悟ができる」
「……期待してるからな」
ここで抑止の言葉をかけないのが安藤だ。羽鳥は安藤に笑って頷いた。

 

「こんにちはー! salvatoreです!」
マイクを通して大きく笑顔で挨拶する羽鳥。安藤の準備が終わるまでMCをつなげる。
「前回はありがとうございました! まさか、自分でも泣くとは思ってなかったんですけど」
安藤は準備をしながら後ろで羽鳥の声を聞く。思ったより元気ではきはきとした声。舞台慣れもしてきたようだ。
「今日は、皆に元気を届けるために、明るい曲を唄おうと思います! 今の私たちだから歌える、いい曲だと思います!」

 

羽鳥は会場が少しざわめいてることに気が付いた。多分、自分の頬のことだ。心配してくれている人がいるのだろう。ほんの数か月前まで誰も気に留めなかった割には大きな成長だと自分でも思う。
「……もしかして、これ、きになります?」
だから、正直なことを話そうと羽鳥は思った。
「大切な人のために、少し喧嘩しちゃって。仲直りはできてないんですけどね。でも、大丈夫です。その大切な人のために、今日このステージで歌うって約束したので!」
脳裏によぎる虎屋の顔と、見たこともない、Beau diamantのベースの子。
今日、は私は彼女たちのために歌うと決めたのだ。
「お待たせしました! それでは聞いてください、『Standup!』」「……大丈夫かな、ひなちー」
「この問題に関しては……、僕が動いた方がいいかもね?」