バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

45 青い鳥の怒り

虎屋ははっとした。足元にしゃがみ込む羽鳥。それまで騒いでたのが嘘のように静かになるBeau diamantの面々。自らの手のひらを見て、虎屋ははっとした。
「ひなちー!」
怒りのあまり我を忘れた虎屋は喜咲に手を上げようとした。しかし、それを後ろから見ていた羽鳥が間に割って入り、自分がはたかれたのだ。
「ごめん! ごめん、ひなちー!」
「大丈夫、大丈夫だよ、イズミちゃん」
「でも!」
「だから、落ち着いて」

 

虎屋にとっては信じられなかった。
いきなり自分がはたかれれば、誰だって怒るものだ。なのに、羽鳥は自分の赤くそまった頬よりも、虎屋の心配をしている。
「事情は分かった。私も許せない。けど、暴力に訴えるのは違う」
「ひなちー……」

 

「な、なによ貴方! 下民どもが無礼を!」
反発する喜咲。羽鳥は虎屋に微笑むと、一度顔を伏せ、喜咲を見た。息まいていた喜咲の呼吸が瞬間止まる。
「貴方方の中で何が起こったか、私はあえて詮索しません。自分が正しいと思うなら、貴方が選んだ『音楽』で、自分たちが正しいと証明してください」
虎屋は思った。ずっと「いい子」の仮面をかぶっていた自分の本性が恐ろしいものだと思っていたが、今、目の前で静かに怒る羽鳥の顔を見ることができない。
「私たちは、貴方のやり方を、『音楽』をもって否定する」

 

虎屋の腕を引いてBeau diamantの楽屋を後にした羽鳥。すぐに虎屋の肩を抱き、言葉を投げかけた。
「事情はなんとなくわかった。今回のグレフェス、その「辻宮さん」のためにも、勝つ」
羽鳥が強い言葉を使うのは初めてだ。虎屋は頬を濡らしながら思った。