バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

治癒と解決

「……」
ふと、梨沢は目を覚まし、ゆっくりとあたりを見回した
見慣れた薄暗い空間ではなかったが、そこは確かに異探偵の事務所にある梨沢の部屋だった

「やっと目を覚ましたか」
その声に梨沢は起き上がって声のしたほうを振り向く
そこには、大黒屋が腕を組んで立っていた

「「もう一つの闇」にのまれるなと忠告した矢先にこれだもんな。マインドアウトってのは怖いねぇ」
その言葉で梨沢は思い出した
真苅達との行動の途中でルイウの群れと戦い、負傷したことを
同時に悟る。自分はマインドアウトを引き起こし、最悪の事態に陥ったことを

「皆は、どうしてるんだ」
「下のロビーで茶でも飲んでるだろ。治療はもう済んでるから安心しな」
「そうか……」
梨沢はそう言うと立ち上がった

「どこか行くのか?」
大黒屋はあえて問う。梨沢も答える
「下にいく。許されることじゃないけど、謝ってみる」
「そ。俺も一緒に行こうか」
大黒屋が付いてくるのを確認し、梨沢は自室のドアを開けた

大黒屋の言う通り、下には異探偵のメンバー全員が待っていた
「……」
梨沢は全員の前に立つと、思い切り頭を下げた
「ごめん。自分の不注意で、こんな事態を招いてしまったこと、反省する。俺のことは」

「梨沢、顔、あげて」
真苅のその声にわずかに視線を上げる梨沢
その額に、真苅はデコピンをかまし
「いって!」

「どうせまた「俺のことは捨ててくれ」とか言うつもりやったやろ! そんなんさせへんからな。お前がここに転がり込んだ時から、うちらは絶対切り離せない仲間なんやで! 覚えとれ!」
「仲間……?」
きょとんとした声で梨沢は言う

「お前がいないとつまんないしな」
「君がいてくれるおかげで助かってることはたくさんあるんだ」
「君のおかげで、僕は公職に務められてるようなものだしね」
「梨沢、離れる、嫌」
「梨沢様、貴方が気負うことはなにもございません。貴方が私を受け入れた時のように」

「皆……」
気の抜けた声を出す梨沢の背を、大黒屋はかるく押した
「てめぇほどの人間が捨てられても損失にしかならねぇんだよ。いいからチームメイトでも甘えればいいんだ」
梨沢はそこで、泣きそうなのをこらえながら頷いた

「さ、仕事は休憩にして、皆でお茶にしようぜ。大黒屋、お前も混ざれよ」
「じゃ、遠慮なく」
今日も異探偵事務所には笑い声が響いていた