バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

8 先

兼森は基地の屋上でコーヒーを飲んでいた
ようやく人形撲滅隊としての自分の仕事と向き合おうとしていた
ためらってはならない。人形は、人の姿をしていても人形なのである

「おや、先客がいたとはね」
その声に兼森が振り向くと、隊長が微笑みながら立っていた
「横、いいかな」

「隊長はすごいですよね。あんなにたくさんの人形を倒してるんですから」
兼森は呟くように言った
戦場において隊長の動きは圧巻であったからだ。伊達に隊長を名乗ってはいない

「そういわれてもなぁ。僕自身はあまりうれしくないよ」
その言葉に、兼森は意外そうに視線をあげた
隊長は口に微笑みをたたえたまま、しかし目を悲し気に歪ませてこちらを見ていた
「僕は、この先が怖いんだ」
「先……?」

「……ううん、なんでもない。今のは忘れて」
隊長はそういってコーヒーを一口飲んだ
兼森はそれ以上追及できず、その場から離れた

隊長はその目で何を見ているのだろうか
きっと自分も思いもしないところを見ているのだろう
何にせよ、彼の思うところはどこにあるのか、兼森には分らなかった