バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

9 出会い

久しぶりに休みをもらった兼森は、私服姿で街中を歩いていた
といっても、何か目的があったわけではない
ただ一人、ぶらぶらと散策したかったのである

人の賑わう中央通から少しそれ、閑散とした街を歩く
斜陽の光が影をおとし、なんだか建物がさびれて見えた
その時

「そこのお兄さん」
そう呼びかけられ、兼森は振り向く
そこには二人の人物が立っていた
いや、正確には「人物」ではない

人間に見せかけられた、れっきとした人形
彼はそれに気が付き、隠し持っていた拳銃を抜いて向けた
「おおっと、そんな物騒なものを向けないでくださいよ」
男の方が両手を上げながら言う。その横で、女の方が刀を抜こうと構えていた

「僕は君に危害を加えるつもりはないですよ」
女の方をなだめ、男は一歩前に出た
「僕はハロ。君たちと会話がしたいだけです」

「人形の言うことが信じられるものか……」
兼森はあくまで忠実に規則を守り、ハロと名乗った人形に拳銃を向け続ける
「冷たい人ですね。それに僕は「人間」ですよ。あんな劣等の塊な「人形」であるはずがない」
彼はそういいながらどんどんこちらに近づいてくる

「君たちはどうして太陽を動かそうとしているのです?「絶対時計」に従う必要などないのに」
「絶対時計」。聞きなれない言葉に、兼森は首をかしげる
「時に縛られないのだからもっと自由であるべきなのに、我々は時間を探す。一体どうして?」
ハロの言いたいことがつかめず、兼森はその場から動けない

「時間なんて、忘れてしまえばいいのに」
気が付くと、ハロは自分に手が届くほどに近くに迫っていた
それに気づくのが遅くなり、兼森は焦る
ハロは兼森の手をとろうと手を伸ばした

瞬間、銃声が響いた

何事かと思い、兼森は後ろを向く
そこには、兼森の拳銃を奪い取ってハロに向けた隊長がいた
「隊長!」
「っ……!」
片目を撃たれてわずかに煙を漏らし、ハロはこちらを睨みつけた

「兼森君、いくよ」
隊長はそれだけ言うと、兼森の手をひいて歩き出した
女の人形がそれを追おうとしたが、ハロ自身が止めた
「今日はもういいですよ、スイ。いずれ軍隊には痛い目を見てもらわなければいけないですね」
ハロはスイの手を引くと、踵を返した