バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

6 死の『預言者』

昼間の仕事を終え、ハシモトは帰路についていた
骨と皮しかない不健康な身体も、スーツで包んでしまえば誰とも変わらないものである
ハシモトは早く裏事務所に戻ることを考えていた

そこに
「あっ」
そう声がしたかと思うと、ハシモトは誰かにぶつかった
ハシモトは勢いで振り向く
そこには、カバンの中身をぶちまけて狼狽える、やや老いた男がいた

ハシモトは無言で地面に散らばった紙を拾い上げる
男はそれに気づき、「ああ」と声をあげて自分もカバンを拾い上げた
「すみません」
「気にするこたァないですよ」
男の声かけにそっけなく答え、ハシモトは集めた紙を男に渡した

「ありがとうございます」
「いいえ。じゃ、俺はこれで」
そう言ってハシモトは踵を返そうとしたが、その動作を遮るように男が彼の腕をつかんだ
「一つ、お礼をさせてください。すぐ終わりますから」

ハシモトははじめて、ここで男を不審がった
同時に今まで警戒していなかったのを悔やんだ
男はそっと目の前に名刺を差し出した
預言者
名刺にはそう書かれていた

「信じてくれなくて結構です。でも、貴方を見ると放っておけなくなってしまって」
預言者』と名乗る男は遠慮気味に言った
ハシモトは素早く脳内でこの男を検索にかける
しかし、それよりも前に『預言者』は言った

「今の貴方は、もうすぐ死んでしまいます」

そして、ハシモトが止めるよりも早く「それでは」と彼は立ち去って行った
胸糞悪い「預言」を残され、ハシモトは暫くそこに立っていることしかできなかった