バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

8 500年前

「はい、確かに私のかつての仲間は、超自然的な能力を有していました」
平然とした顔で答える草香に、ハシモトはかたまった
「そんなことを言ってしまえば、「心器」だってその最たるものだと思うのですが」
「いや、それはそうなんだけど、そうなんだけどよ……」

「なぁに? 面白そうな話してるじゃない?」
そこに洗濯物を片し切ったフブキとアイラがまじる
ルソーはその横でいつも通り資料をめくり、ルソーの向かいに座っていたヤヨイは出されたお茶を飲んでいる

「私の仲間は能力も個性的でした。動物と会話ができたり、訪れた場所を正確に記憶したり」
そう言って草香はルソーの方を向く
「流想さんの「周りがスローにみえる」力もその一つだったと思います。もっとも、これは兄の冬鬼さんも使えましたが」
「ってことは、今のルソーの力も……」
「それは恐らく別です。彼の方が、昔の流想さんより処理能力は優れていると思われますので」

「はァ、まいったねこりゃ」
ハシモトは頭をかく
「草香の証言で超自然的能力を認めざるを得なくなったか」

「ところで、そんなこと、どうして私に訊いたんですか」
草香の質問にハシモトは少し思案した
まさか『預言者』の話をここに出して自分の命が短いことを伝えられようか
先の生活に支障がでるようならやめておいた方がいい。そう判断したハシモトは「ちょっとな」とごまかした

「それじゃ、ルソー。その件は任せたぞ」
「わかりました」
簡単に挨拶を交わし、ハシモトはハレルヤ家を出た

さて、どうする。ハシモトは思考を巡らせる
夏から秋に変わろうとしてるこの頃合い。きっちりスーツを着ていては暑いと、ハシモトはわずかにネクタイを緩めた
その時

「よぉ」
そう声をかけられ、ハシモトは振り向いた
黒いパーカーの男がそこに立っている
その手には、大型ののこぎりが握られていた

「ちょっとついてきてくれねぇか、『ハシモト』」
「……最低」
ハシモトは舌打ちをした