バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

凛とした殺人鬼4

13 幕間・とある可哀想なスナイパーの話

俺は二つ名を持たぬスナイパー カルミアの下っ端として雇われているが、その正体は殺人鬼である 表舞台にこそ立たないが、その太刀筋……いや、銃筋か? 兎に角それで形勢を逆転してきた さて、今回はとある殺人鬼を殺すためにこうやって息をひそめている 『赤…

12 彼の思惑

「へぇ、闇カジノが買収された、ねぇ」 肩肘をついて『猿回し』は言う 後ろには部下の男が報告のために立っている 「買収元は分からないのか?」 「それが、誰に聞いても素で知らないようでして」 「となると、情報が規制された上の方で何かあったな」 闇カ…

11 脅威はいくつ?

「今の段階で割り出されている脅威はいくつかある」 パソコンのキーを叩きながらハシモトは言う。 「カルミアは秘密裏に殺人鬼との多数の契約をかわしているからな」 「その筆頭が『猿回し』と『匠』、『薬師』というわけですね」 「その通り」 ハシモトの裏…

10 完敗

「お前、最初からさっきのカードはブタだってわかってただろ」 カクテルのグラスを傾けながらハシモトはマヨイに問う 「まさか。確かに逆にするように指定したのは私ですが、偶然ですよ」 「それにしては驚異の的中率ですよね」 「まるで「最初からそう操っ…

9 『賽の目』

「……フォーカード。私の勝ちですね」 三度目の勝負を終え、ヤヨイはまだ一勝もできていなかった 目の前の相手、マヨイの手札があまりに強すぎる 否、強い手がこちらに来たと思ったらマヨイの方から勝負を降りているのだ 「サイコロの時も思ったけど、貴方、…

8 賭け師の余裕

「ポーカーのルールはご存知ですよね」 マヨイは封の切られていないトランプを差し出した 「ここのディーラーと組むのはイカサマが疑われてしまいますからね。そちらの誰かにお任せしたいのですが」 「そういうことならルソー、お前がやれ。お前は嘘はつける…

7 楽しみ

「お話はかねがね伺ってますよ。元気そうでよかったです」 カジノの端にあるテーブル席でオレンジジュースを飲みながらマヨイは言う ルソーはヤヨイをちらりと見た。どうしよう、という顔でヤヨイもこちらを見ていた 「お前は最近生活はどうよ、マヨイ」 ハ…

6 カジノの主

地下へと続く階段を、ハシモトを筆頭にルソー、ヤヨイと続いて降りていく 「ここ、闇カジノへの通路じゃないの?」 「ハシモト、我々はあくまでお金の借りどころを探すために移動してきたはずだったんですが」 「いいからついてこい。きっと驚くからよ」 や…

5 今度はこちらから

「なんかさァ、悔しくね?」 不意にハシモトがそう言ったのを聞き、ルソーは顔を上げた 「何がです?」 「だから、カルミアだよ。いっつもこっちが後手に回るからなんか悔しくてなァ」 「僕は、できることならあれにはもう関わりたくないのですが」 「そうも…

4 夜の繁華街

ルソーはいつも通り弁護士としての仕事を終え、帰路についていた 夜の街は賑やかで、髪の色が派手な、ルソーでさえいい隠れ場になっていた ふと、視線を感じてルソーは振り返る 後ろから人がついてきている。黒いフードをかぶり、背には大きな何か ルソーは…

3 ある男の場合

その日、フソウはベンチに腰掛けて空を眺めていた 真夜中ではあるが今日は人を襲う気になれず、ぼーっと時間を過ごしているのである そこに足音が近づいてきた フソウはちらりと横を向いた 「よっ」 「……あなたですか。珍しいですね」 足音の主、ハシモトは…

2 平和な日々

「ねぇ、見て! マヨイちゃんからメールがきたの!」 嬉しそうに端末を見せるヤヨイを見ながら、ルソーは紅茶を口に運んだ 「元気そうでなによりです」 「最近は友達が減ったらしいけど、充実した毎日を送ってるらしいよ」 「……ルソー、最近暗いな。どうかし…

1 いつもの夜

くしゃり 被ったニット帽と一緒に前髪を握りつぶし、ルソーは窓辺に座っていた 後ろではハシモトが凄惨な現場を撮影している。つい先ほどルソー自身が殺した家族だ 「おし、これで証拠も取れた。帰るぞ、ルソー」 ハシモトに声をかけられ、ルソーは立ち上が…

プロローグ

体が熱い そこに熱がこもっているように 自分の体温が上へ上へと昇っていくように 細かいことなど考えられなかった 「どうも、『弁護士』です。ちょっと、殺しに来ました」 赤黒い包丁をまっすぐ向けて、僕は言った 凛とした殺人鬼4 ~カルミアの果てに~