【単発】おとぎ話の守り人
「ししっ、あいつ、あのガキを狙ってるようだぜ」
茂みの中で声が聞こえた
そこから少し離れたところに、一匹の狼がいた
狼の視線の先には、道を歩く少女がいた
「偏屈なあいつのことだ。どうせ妙な作戦でも練ってるんだろ」
茂みの中には、狼が三匹
少女を眺める狼より一回りほど体が大きい
「あいつが待ってる間に、俺たちであのガキ、食っちまおうぜ!」
「その科白、聞き捨てなりませんね」
不意に、凛とした女性の声が響いた
驚いた三匹は後ろを振り向く
そこには二人の人間
ひょろりと長いもやしのような男と、ドレスに身を包んだ女が立っていた
「先ほど通報がありました。貴方方が、『おとぎ話』を変えようとしていると」
「あ? 当然だろ? いつもいつも、あいつばかりがガキ食って。うらやましくないわけがないだろ」
一匹の狼が答える
その様子を見て、男が肩をすくめた
「こりゃダメだぜ、マユミ。あいつらに選択肢を変える意思はないみてぇだ」
「そうですか。それでは」
女はすっと片腕を伸ばす
ばちばちと音が聞こえたかと思うと、彼女の手に大型の拳銃が握られていた
女の拳銃が火を噴いた
左にいた狼が悲鳴を上げてわずかに飛ぶ
「ちぃっ、せっかくのチャンスを邪魔しやがって!」
狼がまとめて女にとびかかった
が、
「おっと、手出しはさせねぇぜ」
間に割って入った男が、どこからか取り出した刀で一同を薙ぎ払った
「ぐっ! こいつ!」
それでも意地で正面を突き進んだ狼は、女に向かって爪を振り下ろした
……はずだった
「なっ!?」
爪を振り下ろすころには、確かにそこにいたはずの女はその場にいなかった
「兄貴、上!」
その声で狼は気が付いた
上空、はるか高くに、マシンガンを構えた女がいたことに
連続した銃声が鳴り響く
狼たちはその場に伏して動けない
女は着地すると、拳銃を中央の狼の額に向けた
「二度と、おとぎ話を荒らさないでください。いいですね」
「おとぎ話「赤ずきん」の保守は完了、か」
帰り道、男は女に話しかけた
「なぁ、これからどこかにいかね?」
「申し訳ありませんが、今夜は用事が」
「そうそう、この前近くで骨董市やってるの見たんだけど」
「……少しだけですよ」
おとぎ話保守軍隊
彼らは、「おとぎ話」を守るための戦士たちである