バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

【単発】おとぎ話の守り人

「ししっ、あいつ、あのガキを狙ってるようだぜ」
茂みの中で声が聞こえた
そこから少し離れたところに、一匹の狼がいた
狼の視線の先には、道を歩く少女がいた

「偏屈なあいつのことだ。どうせ妙な作戦でも練ってるんだろ」
茂みの中には、狼が三匹
少女を眺める狼より一回りほど体が大きい
「あいつが待ってる間に、俺たちであのガキ、食っちまおうぜ!」

「その科白、聞き捨てなりませんね」
不意に、凛とした女性の声が響いた
驚いた三匹は後ろを振り向く
そこには二人の人間
ひょろりと長いもやしのような男と、ドレスに身を包んだ女が立っていた

「先ほど通報がありました。貴方方が、『おとぎ話』を変えようとしていると」
「あ? 当然だろ? いつもいつも、あいつばかりがガキ食って。うらやましくないわけがないだろ」
一匹の狼が答える
その様子を見て、男が肩をすくめた

「こりゃダメだぜ、マユミ。あいつらに選択肢を変える意思はないみてぇだ」
「そうですか。それでは」
女はすっと片腕を伸ばす
ばちばちと音が聞こえたかと思うと、彼女の手に大型の拳銃が握られていた

「おとぎ話保守軍隊員、マユミ・サンダーソニア、同じくラビリンス・グロリオサ。これより、おとぎ話「赤ずきん」の保守を開始する」

女の拳銃が火を噴いた
左にいた狼が悲鳴を上げてわずかに飛ぶ
「ちぃっ、せっかくのチャンスを邪魔しやがって!」
狼がまとめて女にとびかかった
が、

「おっと、手出しはさせねぇぜ」
間に割って入った男が、どこからか取り出した刀で一同を薙ぎ払った
「ぐっ! こいつ!」
それでも意地で正面を突き進んだ狼は、女に向かって爪を振り下ろした
……はずだった

「なっ!?」
爪を振り下ろすころには、確かにそこにいたはずの女はその場にいなかった
「兄貴、上!」
その声で狼は気が付いた
上空、はるか高くに、マシンガンを構えた女がいたことに

連続した銃声が鳴り響く
狼たちはその場に伏して動けない
女は着地すると、拳銃を中央の狼の額に向けた

「二度と、おとぎ話を荒らさないでください。いいですね」



「おとぎ話「赤ずきん」の保守は完了、か」
帰り道、男は女に話しかけた
「なぁ、これからどこかにいかね?」
「申し訳ありませんが、今夜は用事が」
「そうそう、この前近くで骨董市やってるの見たんだけど」
「……少しだけですよ」

おとぎ話保守軍隊
彼らは、「おとぎ話」を守るための戦士たちである