バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

「音」を食らう怪物【ノイジー編】

俺はとある国のスパイ。

今回の任務はこの国、ウィーゴ共和国の大統領と接触し、弱点を探すことだ。

予め手に入れていた情報をもとに完璧な変装をとげ、諜報機関への潜入に成功。

このままうまくいくだろう。そう思ってた。

 

「……あら?」

後ろから男の声。この時間は誰もいないのではないのでは?

振り返ると、気弱そうな赤い髪の男がこちらを見ていた。

眼鏡にヘッドホン。恐れるほどではないだろう。

 

「新人さん、こんなところで何をしてるんですか?」

「ああ、いや。昼食を取ろうと思って待ち合わせを」

「そうでしたか」

男はそれだけ言って通り過ぎようとした。

そこで気づけなければ、俺の首はとうにはねられていただろう。

 

ガン! 金属のぶつかり合う音。

拳銃を内ポケットから出すと同時に、赤髪の男の刀をその小銃で受け止めていた。

「……」

馬鹿な、俺の変装は完璧だったはず。声まで真似ると定評があったはずなのだ。

「てめぇ、俺が誰だか知らねぇな?」

男は低い声で俺にせまる。先ほどまでのおどおどした高い声とは比べ物にならない。

「何を言ってるんですか、先輩。私ですよ」

「お前のような「音」を、俺は一切聞いたことねぇ。どころかお前は勘違いしている」

男は鋭い眼光をこちらに向けた。

「お前の変装している男は、俺の「先輩」だ」

 

しまった、はめられた!

しかし、有利はこちらにある。拳銃相手に刀で立ち回れる奴なんかいない。

 

距離を置き、照準を

「先に」

間合いを詰められ斬りかかったところを背後から

「先に」

振り返りざまの斬撃をかわし正面から

「先に」

……

「先に」

……?

「先に」

……!

「先に」

 

こいつ、俺よりも「先に」動いてくる。まるで動きを読んでいるかのように。

 

カン!

拳銃が跳ね上げられ、丸腰になってしまった。

俺は焦って目の前の相手を見る。

「お前、何者だ!」

二刀流のその男は言った。

「ディクライアン・ノーティスの弟だ」

 

 

 

やれやれ、どうしてこんなことになっているんだか。

技術部の扉を開けると男が縛られて扉の前に転がされていた。

ついていたメモを取り上げる。

『処理が分かんないんで置いておきます。報告してください。ノイジー

厄介ごとを押し付けたのは分かった。

 

男の容体は深刻だった。

いや、命に別状があるわけではない。

ただ、「背骨に沿って峰打ちがなされていた」。

こいつはもう二度と動けまい。

俺はため息を吐いて男を抱え上げた。

 

ノイジー・ノーティス。

あらゆる「音」を食らう人物、か。