バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

リハビリ短編その1

陽子さんリクエス

「海」「地平線」「フレーム」×伊藤兄弟(伊藤浩太、伊藤乙哉)

 「うーみだー!!」

車から身を乗り出して乙哉が叫ぶ。

被った麦わら帽子を押さえながら、子供のようにはしゃぐ。

「おいおい、危ないからちゃんと乗っててくれよ」

俺はハンドルをゆるやかに回しながら乙哉をちらりと見ながら言った。

「だって海だよ? 山は見飽きたし、すっごい綺麗!」

 

切欠は一週間前の夜、ヘーゼルナッツの二人が持ってきたパンフレットだった。

「海でロケかなんかあるのか?」

「おう。けど、石川が海が苦手でな」

その話は前にきいた。島国育ちの石川は、海を見ると故郷の嫌な記憶を思い出すらしい。

「俺たちと一緒にロケに行かないかって誘いに来たんだ。人数多い方が石川も安心するし、辻占にも交渉をお願いしているんだ。どうだ?」

「俺はいいけど、乙哉は……」

どうする、と訊こうと彼の方を見ると、乙哉は目を輝かせてパンフレットを眺めていた。

「……訊くまでもなさそうだな」

田辺の声に俺は頷き、スケジュール帳を開いた。

 

俺たちの田舎は山の方だったので、海なんて片手で数えられるくらいしか行っていない。

故に乙哉が子供のようにはしゃぐのも無理はなかった。

ロケの合間に砂浜を走ったり、浅瀬で水と戯れたりする姿を見て、なんだかこちらも安心した。

「ねぇ!」

乙哉が俺を呼んだ。

「空と! 海が! つながってるよ!」

乙哉の指の先を辿り、俺は息を呑んだ。

 

青い海と青い空。その狭間の濃い青色をした「宇宙」を垣間見て、息を呑まずにいられるものか。

そういえば、乙哉は青が好きだった。故に喜んでいるのだろうか。

俺は親指と人差し指を立てて組み合わせた。指で象るフレームで切り取るのは、繋がってしまった空と海と、その端で跳んで喜ぶ弟。

なんだ、かなり絵になるじゃないか。

俺はふっと息を吐くと、指をほどいて乙哉の元まで歩いていった。