バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

21 存在確認

「あの、ちょっといいかな」
買い出しの帰り、似長と道男は男に声をかけられた
サングラスをかけた背の高い男。顔立ちはかなりととのっている
「ちょっと、君に話が聞きたいんだ。近くのカフェまでいいかな」
呼び出された似長は首をかしげながら、道男と共に男のあとをついていった

「私は作家をしていてね。今度の話のネタを探してるんだ」
平静を保つ男の声をききながら、似長はコーヒーを口に含む
「そこで、ぜひとも君に話が聞きたいと思った。近辺に住んでいることは知っていたが、偶然会えるとは思わなかったよ」
「はぁ。言っておくけど、俺、小説のネタ出しに協力できるほど頭はよくないぞ」
「構わない。むしろ、君でないと聞けない話だからな」

「君は『執行人』について、何か知ってるようだね」
『執行人』。その言葉が出た瞬間、似長と道男はかたまった
どこでそんな話が、『執行人』の存在がばれたのか。似長は思いめぐらすが思い当たる節はない
「できればでいい。話を聞かせてくれないか」

「おい、そんなこと知ってどうするつもりなんだよ」
似長と男の間に道男が割って入った
「『執行人』についての小説書こうってんならお断りだぜ。こっちはあくまで極秘にやってるんだ。公にばらされたらたまったもんじゃない」
そういうと、道男は似長の腕をつかんで席を立った
「しつこいようならこっちにも考えがある。俺たちは遊びでやってるわけじゃないんだ」

似長と道男が去っていく背中を見て、男はわずかに口角をあげた
「……そうか、やっぱり『執行人』は存在するのか。これは大きな前進だ。研究を進めなければ」

「素敵な「言葉」がある限りに」
男は伝票を拾って立ち上がった