バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

11 魔性の瞳

放たれた鎖をいなし、浩太は前に出て華村を翻弄する

武器をもっていない浩太だったが、その実力は華村を大きく上回っていた

歴戦の手のひらに残るは数多の戦でついた傷。それを握り締めて放つ拳は伊達酔狂の威力ではない

 

鎖をふるって距離をおく華村

浩太はあえて後を追わず、距離を測る

「華村君、怖がらなくていい。君の実力を見たいんだ」

「でも、浩太さんが」

 

「君はこのままでいいのかい?」

その言葉が華村に刺さった

「吸血鬼と呼ばれ、誤解され、愛を知らないまま。君はそれでいいのかい?」

 

どれだけ素行が良くても、噂一つで、肩書一つで崩れる日常

「……いや、です」

僕のどこが悪かったんだ? 誰か教えてくれよ

「もう、一人は、いやです」

辛い、苦しい、怖い。その感情を共有できれば

「浩太さん」

どれだけ楽だったか

 

「『僕を見て』ください!!」

 

赤く腫れあがった銀の眼が、浩太を射抜く

浩太は一瞬その眼に見とれ、動きを止めた

攻めるなら今しかない。華村は分かっていた

しかし、攻めることなく華村は地面に膝をついた

 

「……華村君、分かったよ」

解放された浩太は、俯瞰的に自分の状態を見ていた

今、何が起こったか。どうしてそんなことが起こったか

華村は

 

「華村君、君の力は、恐らく「眼」だ」

「眼、ですか?」

「むやみやたらに魅力を振りまいているわけではない。集中して見た相手を釘づけにして一時的に操る能力だ。今はまだごくわずかだけど、鍛えれば役に立つ」

「そう、ですか」

 

華村は笑わなかった。笑えなかった

やはり自分の力は、人を操ってしまうものだと分かったから

「……浩太さんは、怖くないんですか」

「何が、かな」

「自分の自由が奪われることが。奪っていたはずが奪われていたことが」

 

思い起こす、故郷での差別

何もしていなかったのに、吸血鬼と呼ばれ、それでも人を「操って」きた自分

鎖鎌を取り落とす。ぼろぼろと涙を流す

こんなの、僕の望んだことじゃないのに

 

「そうならないために、僕らがいるんだ」

浩太は華村を引き上げて抱き寄せた

「大丈夫。これから考えればいい。君の道を君自身で選べるように。そのために、僕らはいる」

「浩太、さんっ……」

 

華村は声を押し殺して泣いた

浩太は思った。泣き虫な銀髪の男、まるで自分の愛する弟のようだ、と