バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

29 経験と違い

 敵の姿と武器を見ても浩太は一切動じなかった。呼吸は深く、華村も目を見張る。
「助かったよ、華村君。いち早く異常を伝えるよう彼女に指示したのは君だろう?」
「僕はただ「報告に行け」と言っただけなんですけどね」
「意地悪なやつだ」
にっと浩太の口角が上がる。
 相対する松浦はわずかにひるんでいた。
「どうして、四神の申し子が忌み子の味方をなさるのです!?」
「僕は忌み子の味方を通している。僕だけじゃない、四神は全員ね。正しい世界を作りたいのなら手を引いてくれないかな。僕は無理やり君を殴りに行くようなことはしたくない」
「い、今更そんなこと」
「……だよね」
そういう浩太の声は、深いため息にそっくりだった。

 

 放たれる投げナイフ。だが浩太は素手で、的確に落としていく。それも、自分だけではなく華村も守っているのだ。
「っ……」
「武器庫もないのにそれだけの暗器をどこにしまってるんだか。まあいいか。覚悟してよ」
正面切って浩太は蹴りだした。数メートルの間隔など彼にかかれば一瞬だ。
 突き出した掌。指の間を通るナイフをつかみ、そのまま回して握りしめる。松浦もナイフを握るが手首に一撃が入り取り落した。次を出させる暇も与えず、浩太は上体を蹴り倒し体にのしかかる。襟首をつかんで引き上げ、逆手にナイフを持ち替え、首に一閃。
 ……と思ったのだが。

 

「……?」
「浩太、さん?」
寸止めされたナイフを捨て、浩太は松浦に体重をかけたまま振り向いた。
「華村君、鎖を貸してくれるかな」