バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

文章特訓SS タグ編「パフェ」

甘々文字書きワードパレット「パフェ」

「欲張り」「少しずつ」「瞳」

 

 カワウチちゃんは我慢強かった。
 どこでそんな気質になったかは分からないけれど、多分、下の兄弟が多くて姉らしく居ようとした結果だとおもう。明るくはつらつとしているカワウチちゃんだけど、皆の気づかないところで我慢を重ねていたことは分かっていた。

 

「リアクション芸も楽しいもんすよ」
先ほど頭上にタライを食らっても平然とにこにこしていたカワウチちゃん。バラエティの収録後に頭を心配して声をかけたら、「大丈夫っす」の言葉に続けてその言葉を吐いた。
「それより華村さんがあれ食らう方が大惨事っしょ? うちの二枚目なんすから、いつもみたいに振る舞ってればいいんすよ」
その言葉、そっくりそのまま返してあげたかった。
 カワウチちゃんは確かに目を見張るほどの美人ではない。愛くるしいほど可愛いわけではない。でも、その明るさと気丈さで幾人もの人を救ってきたことは知っていた。同時に気になってしまった。その胸の内にどれほどの感情をため込んでいるのか、と。

 

「……カワウチちゃん、ごめん」
「え?」
肩を引き、肩を抱き、ぐっと温もりをそこに留める。抱きしめられたカワウチちゃんは突然のことに唖然とした様子で動かなかった。
「溜め込まなくてもいいんだ。君は、幼いころからよく頑張った。だから、偶には吐いてくれよ、感情も、考えも、何もかも」
今なら誰もいないから、という言葉を付け加え、ただひたすらに小さい体を抱きしめていた。
 数分の後、僕はカワウチちゃんが震えていることに気が付いた。怖がらせてしまったか。そう思って顔を見ると、カワウチちゃんはうるんだ瞳で僕を見上げた。
「……いけないんす。あたしは、我儘言っちゃいけないんす。けど、本当は我儘も言いたい、欲張りたい、愛情が、欲しいんす……」
少しずつ、そう言葉を紡いで話してくれたカワウチちゃんは裾を引く。僕は彼女の満足が行くまで、ずっと抱きしめていた。