バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

字書き地獄 戦闘描写編その2

信じられないものを見た。青は後にルソーにそう語ったが、ルソーの時代ではこれが当たり前になっているという。武器も何も持っていない、細い体躯で素手だけつかうのかと思いきや、突然自分の左胸に右腕を当てた、否、突き刺したのだ。
ずぶずぶと沈む腕を引き抜くと、血のように真っ赤な包丁が現れた。目を白黒させていた青だったが、玉虫のことが頭によぎると冷静になった。
「ずいぶんと派手な武器を使うんだな」
「「心器」といいます。僕の武器はこれだけです」
「なるほど」
弾丸を装填したグロックを一丁、青も取り出す。最初は様子見だ。これだけで追いつけないのは目に見えていたから。
「……いきますよ」
「来い」
ルソーが蹴りだす。額めがけて弾丸を一発。ルソーはよけるでもなく、取り出した赤い包丁で正確にはじく。青も横に蹴りだして四方八方からルソーを狙うが、放つ弾はすべて弾いていく。
「ほう、こんな人間ははじめてだ」
「僕には武器が少なすぎますからね」
「少ない武器を極めているということか。その道もありだったかもしれないな」
青はそういって装填を変える。
 何をどうしているかはわからないが、ルソーにはおそらく「放たれた銃弾が見えている」。となれば、正攻法で勝ち目はない。ならば、攻めるなら武器の数。
「今度はこちらからいくぞ」
ベルトに通していた安全ピンを外し、スモークグレネードを放り投げる。狭い空間が煙で満たされ互いの姿が見えなくなる。青は逆刃刀で自分の指を切り、メンテ済だった重火器を抱えられるだけ抱えた。
「考えましたね、さすがです」
ルソーはあくまで冷静に言葉を発する。部屋の中央にいた自分はおそらく、滅茶苦茶に攻撃されても弾が当たる格好の的だ。
 煙が裂ける。幾多もの銃弾が襲い掛かる。このスピードはおそらく、マシンガン。
「……まずいですね」
そう口を動かしたルソーだったが、やはり包丁をふるって的確に銃弾を落としていく。
四方から襲い来るは、マシンガン、散弾銃、拳銃の弾丸の嵐。目測はできても予測はできない煙の中、そろそろ仕掛けないとまずいと思い至った。
包丁をふるう。煙が裂け、道ができる。その正面に、青の姿をとらえて素早く蹴りだした。
「決着をつけましょう、青さん」
「……わるいな」
青は持っていた散弾銃を抱え上げ、ルソーに向かって投げつけた。突然の反撃にルソーも足を止めざるを得ない。その間僅かコンマ数秒。青はルソーとの間を詰め、逆刃刀を抜いて後ろからルソーを抑え込んでいた。
「……」
「……」
逆刃刀を仕舞い、ルソーから離れる青。ルソーはその場に膝をついた。
「こんな負け方をするとは思いませんでしたよ」
「こちらも予想外が多すぎた。最悪先に斬ることも考えたが、間合いに詰め寄るほうが難しそうだったからな」
青は手を差し伸べルソーを立たせる。
「とんでもない「目」を持っているようだったし、な」
「そこまでばれましたか。なめてました、すみません」