バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

28 力勝負と玄武の宝庫

「大丈夫か、カワウチ」
目の前に立つ田辺の背を見ながらカワウチは返す。
「怪我はないっす! でも、何でここが分かったんすか」
「その話は後だ。構えろ!」

 

地鳴り、次いで振動。田辺と梅沢が互いの拳を受け止めぶつかり合ったのだ。
「へぇ、僕のパワーに拮抗するとはね」
「拮抗、じゃないぜ?」
「……!」
一歩、それは小さな一歩。しかしそれは歩幅を伸ばし、確実に梅沢を後退させていく。
「っ、一人じゃ分が悪いみたいだね。竹田くん!」
「カワウチ!」
頭上、はじける音。互いの邪魔はさせるまいとカワウチと竹田も動く。
「まだ元気なのかよ、この女!」
「雑用で鍛えた体力は伊達じゃないっす!」

 

「カワウチ、そこのチビの座標を固定しろ!」
「了解っす!」
「チビって言うな、デカブツ!」
竹田が反論するが、その間にカワウチは間合いを詰めて上からハンマーを振り下ろした。それに気づいた竹田は飛んでかわすが、瞬間、カワウチの口角が上がった。
 空中、人間の身では移動できない位置にある体を、柄を短く握りなおしてカワウチは下から叩き上げた。もろに攻撃を食らった竹田が上空に放り出される。それを確認した田辺は、そちらの方向に梅沢を突き飛ばした。
「『開け、棍の間』!」
すっと裂け目が入り、上空に口が開く。地面を失った武器が、二人の男めがけて落下していく。
素早くカワウチを引き寄せた田辺はその光景を見送り、ようやく大きくため息を吐いた。

 

「頑張ったな、カワウチ」
呆然と景色を眺めていたカワウチを、田辺は柔らかくなでる。そこで我に返ると同時に、カワウチの目に涙が湧き出してきた。
「……怖かったっす」
ぽつり、言葉一つ。そしてカワウチはわんわんと泣き出した。田辺は止めも慰めもせず、ただ頭を撫で続けた。