バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

31 怪物と二人の女性

落石、瓦礫、人間の悲鳴。その群れをかき分け白虎組が走る。
先導がいないメンバーは住民の救助に徹している中、石川と巌流島が指揮を執って武闘派の隊士たちが黒い怪物に立ち向かっているのだ。
「巌流島、西のほうを頼む! 俺は北の怪物の追撃を止めてくる!」
「あい分かった! 大怪我だけはやめてくれよ!」
石川は空をなぞる。光の帯から引き出した拳銃を二丁、手元で回して集団から離脱した。
 石川を追おうとする怪物に放たれる苦無が、その足を止める。
「御館様、先に西へ!」
「忍、ありがとう」

 

喧噪の音が変わった。特別な力を持たない巌流島でも分かるほど、音の質が違って聞こえた。確か西側に巨大な影を見たはずなのだが。
「御館様! 前線に人間が!」
「なんじゃと!?」
先陣を切って走っていた隊士の声に焦りを募らせた巌流島は更に速度を上げて走る。
いざ見上げるほど巨大な怪物の前にたどり着くと、確かに眼前に女性が二人。
「主ら、何を考えておる! 早く逃げんか!」
そこまで叫んで、巌流島は女性たちが「風変り」なのに気が付いた。

 

 白い服を身にまとう女性たちは、そこいらの一般人とは明らかに纏う空気が違う。そう、まるで「望んでそこにいる」ように。「戦う意思を持っている」ように。
「ツバサちゃん、今日もよろしくね」
「まかせて、ツボミちゃん」
金髪のツインテールの女性が怪物に向かって蹴りだした。静止の声はおそらく届かない。巌流島は二人の背後で集中する。そんなことをしていると、青髪のポニーテールの女性が片腕を上げた。
 ぽう、と手元に現れた光をつかみ、引き絞る。それは一対の弓矢となり怪物に放たれた。降り注ぐ光の矢にひるむ怪物。そして立て続けにツインテールが、人間の所業とは思えないほど高く飛び上がり、怪物の顎に蹴りを一発。怪物はのけぞるがまだ耐えるらしい。
「しつこいなぁ! 次で決めるよ!」


「主ら、そこから動くな!」
集中力を切らさないようにそれだけ叫んだ巌流島。その声に白い服の女性たちが気づき、道を空ける。跳んで一瞬。「無残」の一閃が怪物の首を弾き飛ばし、灰へと還したのであった。