バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

43 「四凶獣」の目的

 朝ぼやけ、濃い霧の中を歩く一行。これだけでもとても幻想的だな、と華村は思う。
「西の果てには、何かあるんすか?」
「かつて「白虎」の神が住まったとされる神殿があるんだ。最後に見た時はもう瓦礫の山だったけどな」
「そうなんすか。立派だったんすよね、やっぱり……」

 

「……浩太」
カワウチと田辺が言葉を交わしている間に、石川が浩太に声をかけているのを華村は見た。
「今回の犯人、お前は誰と踏んでいる?」
「……「四凶獣」が動いたかな、と」
「「四凶獣」ですって!?」
紫音の大声に全員が一度歩を止める。
「あっ……す、すみません」
「い、いや、いいよ。耳がいいんだね、紫音ちゃんは」
「そ、そうですよ。それより「四凶獣」って」

 

『そこまでわかってるなら、隠れる必要もないって感じかな』

 

何処からともなく声が響く。いや、頭だ。頭の中に声が響いているのだ。声の雰囲気からして、乙哉たちでも、東雲たちでもない。
「だ、誰だ!」
竹田が叫ぶ。すっと、彼らの前の霧だけが晴れる。
瓦礫となった神殿の上に、一人の人物が座っていた。
『僕は五月美奈。伊藤君のいう通り、「四凶獣」の一員だ』

 

「てめぇか、街にあの黒い怪物を放ったのは?」
田辺の声に五月は嬉しそうに頷く。
『ああでもしないと、あの二人が報われないでしょ? 僕はあくまで平和な世界を創るためにやってたんだけどな』
「どういうことだ」
『僕は「忌み子」が救われる世界を作りたかったんだ』
華村とカワウチがかたまる。
『そこに生を受けただけで嫌われ続ける存在は、君たちが思っている以上にたくさんいる。僕はそんな人たちを助けたかったんだ。……それでも、君たちは僕を止めるつもりかい』

 

「華村、カワウチ、お前たちは下がれ」
石川の声に、華村は首を横に振った。
「そう思っている人が一人でもいたことには驚きでした。ですが、やり方が間違っている。僕は、こんな救われ方、望んでいない」
「そうっす! あたしも華村さんと同意見っす! 罪のない人間まで傷付いていいはずがないんすから!」
各々武器を構えるのを見て、五月は首を振った。
『わかってないね、君たちは。……いいよ。なら、相手してあげる。「四凶獣・混沌」がね』
瞬間、四方から黒い怪物が襲い掛かってきた。