バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

『泣かないで』:田辺雄介

俺の相方は、昔はよく泣いた。

恐怖に駆られて泣きながら俺のところに来て、そのたびに「泣くな、泣くな」と背中をさすっていたことを覚えている。……まぁ、恥ずかしいからって相方には口止めされているが。

と思っていたのだが、とあるバラエティで相方は、自らその話を切りだした。

 

「俺なんてクッソ泣き虫で、田辺をよく困らせて……」

相方の過去のことを掘り起こすのは、絶対にやってはならないことだと分かっていたので、俺は相方の話に合わせてちょっとだけ肉付けしていく。

収録が終わり楽屋に戻っても、相方は変わらない笑顔でくつろいでいた。

 

「……なぁ、さっきの収録」

「ん? ……ああ、あのくらいなら話してもいいかなと思っただけだよ」

相方は笑う。

「確かに過去のことは死んでも触れてほしくないけどさ、田辺に出会ってからの事なら、話してもいいかなって思ったんだ。」

「何でだ?」

「芸人のくせに話のネタがないのは困るだろ? それにさ、」

相方はまっすぐ俺の目を見る。

「田辺と出会ってからなら、人生変わってからなら、もっとみんなに知ってほしいと思ったんだ。」

 

「……って、おい。なんで田辺が泣いてるんだよ」

感情に駆られたわけではない。自然と流れ出したその涙を拭きながら俺は答える。

「成長したよな、お前」

「保護者じゃねぇんだから。あーあー、泣かないで」

相方の笑顔には、いつも助けられる。