バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

49 秘密の助太刀

突然会場に響く声。舞台袖から出てきたその姿に、会場が沸き立ち、羽鳥は驚いた。
「き、北河さん!」
「どうも~、よい子はお休み、ネロ・北河で~す」
羽鳥が口を開こうとしたが、ネロはそっと後ろを振り返り、口元に指をあてた。
「ネロさん、どうしてここに!?」
「司会が驚いちゃだめよ、加原先輩。グレフェスの魅力をお伝えしてくれって運営からお願いされて、裏で待機してました。この二人に何があったかもしっかり見てるので、喜咲ちゃんが殴りかかる前に弁明しておこうかな、とおもって」
喜咲は固まる。北河がsalvatoreのメンバーであることは知らないが、真実を明かされると不利になるのは喜咲の方だ。
「馬鹿、やめなさい!」
「どうして? きちんと真実をお伝えしないと、誤解が生じたまま何もかも歪んでしまう。それに、心配するべきは君じゃなくて、「頬が赤くなっている」羽鳥ちゃんだと思うんだけど?」
「っ……!」

 

北河はありのままを話した。確かに手を上げたのはsalvatoreのメンバーであること。しかしそれは、Beau diamantの理不尽な人選に怒ったこと。羽鳥はメンバーが罪を犯さないように間に入って平手を食らったこと。
「それに、二回戦は会場投票制。君たちに票が入らなかったってことは、「ベースとDJのメンバーが変わってる」ことに気付いた人が少なからずいたんじゃないかな」
「北河さん……」

 

「何よ、ベースが変わったくらいで音が変わるわけないじゃない。だれでもいいのよ、そんなの!」
「へぇ……、「だれでもいい」?」
喜咲はまだ気づかない。今、会場は完全に喜咲のアウェーであることを。
「だってよ、皆~! こんなリーダーより羽鳥ちゃんを推してくれるよね~!」
ぱらり、ぱらり。手を叩く音。それは瞬く間に広がり、会場全体が、羽鳥を応援していた。
「……ということらしいけど、反論あるかい、喜咲さん?」
「く、くぅぅぅぅぅ!!!」

 

「独りよがりな欲望は身を亡ぼす。皆も分かったんじゃないかな。というわけで、salvatoreも進出するグレフェス準々決勝、まだまだ続くから皆、もっと楽しんでね!! おはようございます、ネロ・北河でした!」