バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

15 やりにくい逃走劇

体力に自信はなかったが、今はただ走るしかなかった
巻き込まれた『ネズミ』がこちらを向く
「『仕立て屋』さん、何かあったのですか!?」
「私が聞きたいよ!」

ヤヨイは考えていた
追いかけてくる相手が殺人鬼ならなんとかなったと思う。殺してしまえばいいのだから
しかし、そうもいかない。相手は「一般人」なのである

「……心器かもしれない」
「えっ?」
ヤヨイには容易に想像がついた
「心器の複数所持」。ヤヨイに課せられた試練
それはあまりに例外で、政府にさえ狙われる代物だった

『ネズミ』が踵を返した
何事かとおもってヤヨイはそちらを見る。『ネズミ』はその場に佇んでいた
「『仕立て屋』さん、先に行ってください」
「何言ってるの、『ネズミ』くん!」

「僕が時間を稼ぎます。そのうちに安全な所……『ハシモト』の裏事務所まで向かってください」
「でも!」
「僕は大丈夫ですよ」

ヤヨイは暫く留まった。が、やがて『ネズミ』を気にしながらも走り出した
『ネズミ』はそれを見送ると、まっすぐ正面を見た
「ここは、通しませんよ。たとえ貴方方でも」