バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

23 機械とは

「私は、機械なのに、心を持ってしまいました」
昼下がりの公園。フブキとルソーにはさまれる形で座っていた草香はぽつりと呟いた
「殺人鬼になった今もそれは変わらなくて、人を殺すことに抵抗を覚えるのです」
「いいことじゃないの? そうやって機械的になってしまうよりましだと思うんだけど」

「そうもいかないんですよ、姉さん」
ルソーは缶コーヒーを口にする
「裏世界に足を突っ込んでしまった以上、引き返すことはできません。しかし、彼女の場合、必須となってくる「殺し」ができない。だからいっそ、心がなくなればいいのにと思っているんですよね、草香さん」
「……はい」

「私は今の草香ちゃん、好きだけどなぁ」
フブキは呑気に言いながら空を仰ぐ
汗ばむ陽気になってきた頃合いである
「案外、草香ちゃんも喜怒哀楽はっきりしてるのよ。おいしそうに手料理食べてくれるし、真剣に話に向き合ってくれるし。そういうのって、普通の機械にはないじゃない? 私は好きよ」
「しかし」
「殺すのどうこうのって、もう忘れていいんじゃない? そんなことしなくても、私は受け入れるわよ」

フブキの申し出に草香は一瞬ためらった
自分が引き起こしたカルミアとの戦いに、これ以上皆を巻き込みたくなかったのだ
しかし、一人でいれば『殺戮紳士』あたりにとらえられてしまうであろう
「……わかり、ました」
草香は、そういうしかなかった