バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

72 裏世界への嫌悪

ガチャン
日常使いしていたコップを手から滑り落とし、ようやくミツミの目は覚めた
彼は疲弊していた、日常における激務に
日中普通に仕事をしている分には問題なかった。ただ、彼には「深夜の業務」があった
そう、彼は殺人鬼さえ受け入れ手がける「闇医者」なのである

「ミツミさん」
破片を片付けていると、上から声をかけられた
見上げると、奇妙な、しかしミツミにとっては見慣れた機械がそこに「いた」
「大丈夫か。今手伝う」
「あ、ありがとう、プラチナ」
プラチナ、と呼ばれた機械はそのまま奥に行き、新聞紙をつかんだ

プラチナはサイボーグである
彼曰く500年ほど前、ちょうど草香や名瀬田が生まれたであろう時期に、脳の一部を残して機械化したらしい
しかし身寄りもなく体もさび付き、機能が停止しようとしたときにミツミに拾われた
彼は「恩返し」と称し、ミツミの仕事や生活のサポートを行っている

「最近眠れてないみたいだな」
プラチナは言う。ミツミは申し訳なく頷いた
「事件による駆け込みが増えてね。ろくに眠ったのがいつか覚えていないんだ」

「どうしてそうまでして、裏世界に足を突っ込む?」
プラチナの声に、破片を集めていたミツミは手を止めた
「……僕も、好きでこんなことやってるわけじゃないんだ」
「と、いうと」
「脅されててね」

「僕の職場、本当は大きな総合病院だったんだけど、横領がおきてね。その時の借金と責任を擦り付けられたんだ」
「それは大変だったな」
「で、一時的に救われたんだけど、その救ってくれた相手が裏世界の人間でね。この事実を公にされたくなかったら、殺人鬼も受け入れろ、だって。嫌だけど、恩人でもあったし、受け入れるしかなかったんだ」

一通り話を聞いたプラチナは、それでも首をかしげた
「……結局のところ、脅されてるじゃねぇか」
「ま、まぁそうだね。でも、仕方なく」
「脅されてるのに、「恩人」なのか?」
その言葉にミツミは再びかたまり、プラチナを見た

「俺だったら、さっさと縁を切りたくなると思う。結局苦しんでるのは、自分じゃないか」
「……そっか」
ミツミはあいまいに頷き、コップの破片を集めた新聞紙を折りたたんだ