バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

生贄の天才

「なんや、梨沢も実は買うもの溜まってたやないかい」
「てめぇの方が買ってるだろ、真苅……」
梨沢は栗原と共に真苅に駆り出され、ショッピングにいそしんでいた
研究の成果がうまく出ず、おまけに最近変な夢や妄想にとりつかれて苛立っている梨沢に気分転換をしてもらおうと真苅が提案して引っ張り出してきたのである
一通りショッピングを終えた一行は、帰路についていた

「相変わらず人通りの少ない場所だね、ここは」
「いくら電脳ゲームでも過疎過密位存在するもんやろ。うちは賑やかな方が好きやけどな」
そんな二人の会話を聞きながら、梨沢はぼんやりと考えていた
最近になって頻繁に訪れるようになった「ノイズ」
あれは自分に何を伝えようとしているのか
その実態が掴めなかった

「梨沢、梨沢!」
不意に届いた真苅の声に、梨沢は顔を上げる
「どうした、真苅」
「あれ……!」
真苅の指さす方には、巨大な黒い塊があった

それは足の長い亀のような形をしており、ずんずんと音を立てて前に進んでいる
「かなり巨大なルイウじゃないか!」
「急ごうで。あれ放っておいたら被害が出る!」
走り出す真苅と栗原を、一歩後ろから追う梨沢
途中で誰かとすれ違ったようだが、そんなこと気にも留められなかった

「あかん、でかいわ……!」
ルイウの付近に寄った三人
大型ルイウに比べれば小柄だが、それでもその辺のアパートと同じくらいの大きさはあった
「栗原、ルイウリーダーを!」
真苅の声で栗原は端末を取り出してルイウを読み込んだ
『ルイウレベル【8】』
アナウンスがそう告げた。そして、それに続いて宣告した
『討伐条件を満たしていません。直ちに避難してください』

「はぁ!? こっちは上級者の梨沢がおるんやで!?」
「いや、無理だ」
怒り出す真苅を制し、梨沢は言った
「俺はお前たちのチームに入っていない。そっちのチームには今「近くに上級者がいない」んだ」
「!」

「でも、このまま放ってはおけないよ!」
栗原の声に、梨沢は頷く
「お前らは事務所に戻って梅ヶ枝達連れて来い」
「お前らって、梨沢はどないするん!」
梨沢はルイウリーダーをルイウに向けて言った
「俺が、しばらく足止めする」

「そんな、無茶言わないで!【8】のルイウなんて、一人じゃ太刀打ちできないよ!」
「だから連れて来いっつってんだよ。ここで足止めしなかったら、どうなるか分からないだろうが」
でも、と反論する真苅と栗原に苛立ち、梨沢は叫んだ
「いいから行け!!」
その迫力に気圧された二人は、振り返りながらも走って行った

残された梨沢は盾を取り出し、握りしめる
ルイウもこちらの存在に気付いていたのか、ゆっくりと首を動かした

「かかってきやがれ。ここから先は通さねぇぜ」