バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

31 決断と非情

「上官」
一人の男が『猿回し』に近づく
『猿回し』は幾多ものモニターから目をはなし、男の方を向いた
「どうした」

「本当にあの女は、協力してくれるのでしょうか」
「なんだ、そんなことか」
『猿回し』は近くに置いてあった紅茶を一口含む
「心配はいらない。彼女自身から連絡があったんだ。間違いなく協力体制だ」

「しかし、あの女は今まで間違いなく『仕立て屋』側についていました。何か吹き込まれているかもしれません」
「あはは! 馬鹿だなぁ、お前。吹き込んだのは俺たちの方だろう!」
ケラケラと笑う『猿回し』を、男は困惑しながら見る
「安心しな。万一裏切ってもこっちの情報は漏らしてねぇよ」

「そんなに心配なら、お前もここで見ているといい」
『猿回し』は一つのモニターを広げた
そこには、ヤヨイの手を引くマヨイの姿があった

『猿回し』は自らの右腕を左胸に押し込む
ずるりと音を立てて現れたのは、血の色をした懐中時計
彼はそれを開くと、にやりと笑った
「そろそろタイムアップだぜ、『仕立て屋』」



「ねぇ、マヨイさん、いいの、こんなところに出て」
「……」
ヤヨイの声も気に留めず、マヨイは彼女の手を引いて走る
少し開けた場所にたどり着き、ようやくマヨイは止まった

「……ヤヨイさん、私、あれから考えたんです」
マヨイはうつむいたまま言う
「何が本当のことで、何が嘘か、この業界じゃわかりません。でも、カルミアをつぶしたのは、事実なんですよね」
「貴方、何を考えてるの?」

「私、お父さんが死んだ理由はわからないけど、貴方たちが許せない」
ぽろぽろと、マヨイの目から涙がこぼれる
「だから、ごめんなさい」
ざわり。茂みが揺れる
幾人もの人間が、そこに現れる
ヤヨイが下がる。マヨイはヤヨイの方を見て言った

「死んでください、ヤヨイさん」