バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

シャクナゲ武器パロ「日出国忌子」

16 決意:玄武組の場合

「アケミちゃん! 出てきてよ!」「嫌っす! あたしは梃子でも動かないっす!」扉一枚を挟んで緑の装束が言い争う。カワウチは突然の招集、派遣に反発し、自分の部屋に籠ってしまったのだ。「貴重な経験になるのなら、皆をいかせるっす! あたしは、雑用だけ…

15 決意:青龍組の場合

「斎藤さん、立花さん。今、大丈夫かな」二人の部屋の前でそう声をかける乙哉。扉はすぐに開き、乙哉は部屋に招き入れられた。「お疲れ様です、伊藤様」「今日はどのような案件でしょう」「君たちにお願いがあってきたんだ」 「今朝がたから遠征のためにメン…

14 夜更けの会議

広い部屋にはランプが一つ灯るだけだ。顔を突き合わす四人。伊藤浩太、伊藤乙哉、田辺雄介、石川卓郎。四人の会合はひそやかに行われる。 「兄貴、大丈夫だった?」「うん。声が聞こえた以外は何ともなかったから」「西の果て、か。当てはあるのか、石川」「…

13 雑踏からの忠告

伊藤浩太は買い出しに街に出ていた。 人で賑わう市場を、袋を抱えて歩く浩太。人々の往来が激しく、一人一人の顔が見れるわけではない。「人間も大変だなぁ。こんなところにほぼ毎日立ち入らなきゃいけないなんて」 彼は人間ではない。いや、人間ではあるの…

12 読書好きの知識欲

乙哉は部屋を巡って隊士たちに挨拶をかわす 堅苦しいのは苦手ではないが、どうせ付き合うなら明るくいきたいとは乙哉の言うところである 「……ん? アケミちゃん?」 乙哉は部屋の前でうろうろしているカワウチを見つけた。カワウチもこちらに気づいて寄って…

11 魔性の瞳

放たれた鎖をいなし、浩太は前に出て華村を翻弄する 武器をもっていない浩太だったが、その実力は華村を大きく上回っていた 歴戦の手のひらに残るは数多の戦でついた傷。それを握り締めて放つ拳は伊達酔狂の威力ではない 鎖をふるって距離をおく華村 浩太は…

10 吸血鬼の告白

浩太の元に現れた華村は、巌流島からの報告が既に彼の元まで届いていることを知った。「自分で言うのもおこがましいですが、僕は外観に置いては秀でた特性を持っていました」華村は浩太の隊士だ。故に華村は、自分の身の上をいずれ明かさなければならないだ…

9 「無残」、そして「美麗」と

応援要請。その話を聞いた華村は巌流島と甲賀に率いられ獣道を走っていた。「甲賀さん! この先に怪物がいるって、本当ですか!」「間違いありません。しかも群れです。既に喧騒が耳に入ってくるでしょう?」「華村君、協力を要請したのは我々だが、無理だけ…

8 忌み子と人の子

昼食の時間になっても巌流島は食堂に現れなかった。甲賀に訊いてみると、彼女は困ったように笑ったのだ。「あの人、一度調べものを始めると夢中になって時間を忘れるんです。私も後で向かいますが、よろしければ、おにぎりでも持って行ってくれませんか」そ…

7 見えない存在と「残響」

「……え?」その生物を見つけた斎藤と立花はぽかんとした。目の前にいたそれは、小型の黒い猪。それ単体では650キロもあるようには見えない。「どういうことですか、カワウチ様」「事前情報との食い違いが見えるのですが」「いいや、こいつはでかいはずっ…

6 女の子の会話

斎藤と立花はカワウチを連れて買い物に出ていた。「カワウチ様、お買い物につき合わせてしまい申し訳ございません」「あたしは楽しいからいいっすよ! 女の子っすもん、お洒落とかかわいい物とか気になるはずっすから!」 「カワウチ様は大変活発なのですね…

5 鑑定の時間

昨日の広間に呼び出された華村、斎藤、立花の目の前には、大きな箱が置かれていた。「昨日はどうだった、皆? ぐっすり眠れたかな?」乙哉がニコニコと笑いながら問う。三人はバラバラに、曖昧に頷く。「久しぶりに布団というもので寝たから、疲れも溜まって…

4 信じること

「おお、斎藤君に立花君ではないか」朝食を終えて乙哉に呼ばれ、広間へ向かう廊下で二人に声をかける男性の声。振り返ると、和装に身を包んだ男女の姿があった。「巌流島様、甲賀様」「まだ緊張はしてないかね?」「ええ、まだ少し、信じられなくて」 「気を…

3 普通の生活

「華村さーん!」明るい声と共に音高くドアが開かれた。その音にびっくりして布団にうずくまっていた華村が飛び起きる。「な、な、……なんだ、カワウチちゃんか」「そうっすよ! 世紀の雑用係っす!」 昨日、四神の申し子に挨拶を終えた華村、斎藤、立花は、…

2 忌み子の住みか

小さなホテルを思い出すような豪勢な建物に通された三人は、まだ戸惑いながら装束姿の男たちを見ていた。廊下を歩いていると色んな人にすれ違う。一様に皆若いが、その顔は幸せと懸命の交じった、とてもよい表情だ。 「そういえば、自己紹介してなかったね」…

1 忌み子と化け物

腰が抜けて、動けなかった。 後に三人はそう語る。 男は、地元でも危険とささやかれた森に投げ込まれ、帰る道を探していた途中だった。 二人の女は偶然にも同じ理由で男とはちあわせ、一緒に道を探していた。 「……ふー」 目の前に立つ赤と青の装束。 髪色も…