バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

セカヒト番外 ヘテロ編

彼女の世界の作り方

「梨沢、ちょっといい?」 丁度休憩しようと降りてきた梨沢に、栗原が声をかけた 「真苅にお茶運んでもらえる?」 「べつにかまわねぇけど、真苅、何かしてんのか?」 「朝からバグの報告が届いてね。外部からの応援ってことで、こっそり参加してるんだ」 真…

マシン語を話す少女

「あ? 真苅のこと?」 柿本は素っ頓狂な声を上げて梨沢を見る テーブルについていた梨沢は皿のケーキをつつきながら返した 「そう。しばしば振り回されっけど、俺、あいつのことよく知らねぇなぁって」 「そもそもあいつは本当に「異端」なのか? 普通に考…

治癒と解決

「……」 ふと、梨沢は目を覚まし、ゆっくりとあたりを見回した 見慣れた薄暗い空間ではなかったが、そこは確かに異探偵の事務所にある梨沢の部屋だった 「やっと目を覚ましたか」 その声に梨沢は起き上がって声のしたほうを振り向く そこには、大黒屋が腕を組…

彼が優秀な訳

「嘘でしょ、何があったの、梨沢……?」 栗原が声を漏らす それに反応したかのように梨沢は足を止め、ぐるりと振り返った 目は赤く光り、完全に正気を失っていた 「真苅様、柿本様、いかがなさったのです!」 梅ヶ枝は倒れている真苅を抱え上げながら言った …

最悪のマインドアウト

「走れ、真苅! 奴らの動きを牽制しろ!」 「言われんでもわかっとるわ!」 ルイウの群れに遭遇した梨沢は、同伴していた真苅と柿本を率いて群れを追っていた 逃げ場を失ったルイウは次々と襲い掛かってくるが、梨沢に弾かれ、柿本に斬られていった 「よっし…

力試し

「いいですね、梨沢様、柿本様」 「いつでもいいぜ!」 「ったく、めんどくさいけど仕方ねぇか」 ぽんぽんとかるく跳ねる柿本を見ながら、梨沢は盾を構えた 事の発端は柿本だった 「なー、誰でもいいからちょっと体動かすの付き合ってくれねー? 最近全然バ…

飾る言葉

「よう」 聞き覚えのあるその声をきき、梨沢は振り向いた やや背の低いその人、大黒屋は微笑んで片腕をあげた 「久し振りだな、梨沢」 近場のカフェで紅茶を一口すすり、梨沢はぼんやりと大黒屋をみつめた 「あんた、まだ無事だったんだな」 「こっちの台詞…

残響の後

「本っ当に申し訳ございませんでした!!」 音が鳴る勢いで頭を下げる梅ヶ枝 「せやからその事はもういいて言いよるやろ。こうしてラーメン奢ってくれとるんやし」 呆れた声で真苅が返した あの後、鬼才の薬を流し込まれ病院に担ぎ込まれた梅ヶ枝はすんなり…

彼のために

梅ヶ枝は周囲を見回していた 四方を霧で囲まれ、迂闊に動けなくなっていたのだ 右肩の傷は治癒補正である程度治っており、多少無理をすれば動かせるところまできていた 不意に風を切る音が耳に届き、梅ヶ枝は素早く飛び退く カカカッと音が響きながら、先ほ…

困惑と団結

梅ヶ枝の姿は異様なものだった 腹部の布地が裂け、右肩に大きな傷を負っており、右腕は思うように動かないようだった 「おい、梅ヶ枝!」 追いついた柿本が声をかける。梅ヶ枝はぐるりとそちらを振り向いた いつもの懇切丁寧な仕草はどこにも見受けられない …

完璧主義者のSOS

カツン、カツン アスファルトを叩く音が響く 彼は腹部を押さえながら、少しずつ、前へと歩いていた 人が少ない場所へ。できるだけ広い場所へ 迂闊であった。彼は思う さほどレベルの高いルイウではなかったが、うっかり傷を負ってしまった。これがいけなかっ…

来し方行く末

「だいぶ寒くなってきたな」 窓をあけて換気を行いながら柿本が言う それを片耳に聞いていた梨沢が「そうだな」と返す 「まだ気温は安定しないけどな。昨日はそこそこ暑かったじゃねぇか」 「そうだけどさ」 「……なぁ、柿本」 不意に思い立ったように、梨沢…

選ばれた者

「随分と広い建物に住んでいるんだな」 「事務所を兼任しておりますので」 梨沢がフォーマルウェアの男に連れられてやってきたのは、壁にツタの這う一見古めかしい建物であった しかし、中はしっかりと綺麗にされており、居心地がよかった 「どうぞこちらに…

このセカイに来たのは

ルイウが大きく吠える。上半身が浮く それを見計らって鬼才は釘から手を放し、梨沢を抱えて飛び込む形で僅かに離れた 「間に合ってよかったよ」 額から血を流し、明らかに自分の心配をしなければならない筈の鬼才は笑う 「鬼才、その怪我」 「放っておけば治…

天才の葛藤

梨沢は孤独であった 生まれ持った物理学に対する才能が仇となったのだ 彼の周りによりつくものはおらず、いじめにさえ発展しなかった 「俺を見る目は皆、奇異な生物を見るようだった」 梨沢は以前そう言ったことがある。誰に対してかは、まだ思い出せない だ…

生贄の天才

「なんや、梨沢も実は買うもの溜まってたやないかい」 「てめぇの方が買ってるだろ、真苅……」 梨沢は栗原と共に真苅に駆り出され、ショッピングにいそしんでいた 研究の成果がうまく出ず、おまけに最近変な夢や妄想にとりつかれて苛立っている梨沢に気分転換…

「異端」

ノイズが走る。目の前で砂嵐が起こる 奥の景色がよく見えない。振り返っても道はない 「お前は、もう、来るな」 そんな声が聞こえる。本気で嫌悪、いや、恐怖した声 どうして 考えもしない言葉がよぎり、その場にうずくまる ぼたぼたと大粒の涙が落ちる うる…

所属の理由

「珍しいね。君からお茶に誘うなんて」 鬼才はそう言いながら、コーヒーを一口含んだ 梨沢が鬼才に出会ったのは偶々道端でばったりだったのだが、ふと、先日出会ったことを思い出し、呼び留めてしまったのである そんなところで何の話題もないのだが、とは言…

記憶のない男

梨沢英介には記憶がない 気が付いたらこのセカイにいて、自分は物理学者で、あてもなく彷徨っていたところを探偵事務所に拾われた 梨沢はそう言う 元の「世界」に帰ろうとも思わないし、今のままの生活が一番心地よかった ある疑問がささくれ立ち、主張をし…

【ジョーカー】の模擬戦

その申し出があったのは、栗原の方だった 「そろそろさ、林檎のレベル上げも真剣に考えるべきだと思うんだ」 休憩中の事務所のメンバーがそろって疑問符を出す その様子を、やはり休憩中だった梨沢も見ていた 「まぁ、それもそうやとはおもうけども」 やや渋…

面白い「ヒト」

「……ちっ」 舌打ちを一つ打ち、梨沢は路地を歩いていた 探偵事務所のメンバーが全員手が空いておらず、おつかいを任されたのである チームでもないのに何で俺がとブーイングしたが、普段一室を借りている上に事が進まないのを嫌う梨沢は仕方なく引き受けた …

共闘戦線

「ちっ、やっぱ【6】相手はきついな……」 盾を地面に突き立て、梨沢は呟く 研究のネタ探しにルイウの討伐を行っていたら、自分のレベルより上のルイウに遭遇してしまったのだ そのまま見逃しても良かったのだが、先に住宅地があるのを思い出し、舌打ちをしな…

留守番たちのティータイム

研究に煮詰まった梨沢が階下に降りると、居間には二人しか姿が見えなかった 「おい、柿本」 梨沢が声をかけると、ティーカップを並べていた少年が振り返った 否、少年ではない。彼は「少年の姿をした少女」である 「どうした、梨沢」 僅かに笑いながら彼女は…

引き抜かれた男

「やだなぁ、レベル上がってるって聞いたけど、伊達じゃない成長ぶりじゃないか。僕怖いよ」 「そういう鬼才様だって、腕が落ちるどころかあがってるではありませんか」 互いに互いをにらみ合い、爪と釘をぶつけ合うのは、今その傍らで彼らを眺める梨沢の知…

セカヒト番外 登場人物(梨沢編)

梨沢英介(なしざわえいすけ)【フィジカリスト】 IDは「物理学者」、上級者 属性:闇(「もう一つの闇」) 武器:身の丈はある二枚の透明な大盾。押し出す、押しつぶす、突き下ろすなどの戦法を得意とする 技1:針化……鋭い棘や針として闇を具現化して放つ …

梨沢の「仲間」という概念に対する考察

梨沢はかわいそうな奴や 彼をよく見る真苅は彼をそう揶揄する それは、梨沢に「仲間を持とう」という思考が存在しえないからであろう 仲間を持てば強くなる。彼はそう思っていないからだ 近場にあったベンチに腰掛け、梨沢はぼんやりと人を眺めていた 目の前…

梨沢英介の日常

ああ、またいつの間にか朝になっていた これだけ没頭してもう何日目だろう いまだに欲しいものはできない 自分の技量のなさだけが悔やまれる 物理学の天才になるために、何度もぶつかっては押し負けた でも、今回こそは、これこそは…… 「梨沢! おるか?」 …